文芸奨励賞
部門: 詩
表題: 秋天の息吹
受賞者: 高知市 高橋治光
私は変わった
傲慢な男が あの日から
とても謙虚な男に成った
人さまに頭を下げるように成った
米搗つきバッタのように
ぺこぺこと頭を下げる
人さまに頭を下げる事が これほど
気持ちの良いものとは知らなかった
あの日から私は変わった そして
私の周りは優しい人ばかりに成った
愚痴も不満もなく
いつも心は満たされており
私は笑顔で生きている
緑内障と網膜症で五年前より
視力が急速に低下して来た
視力が低下するほど夢をよく見る
現(うつつ)の世界は霞と成り果てたが
夢路の万象は鮮明に見える
ある日 夢の中に初恋の人が
二十歳(は た ち)過ぎの容貌で現れた
チャーミングな笑顔がとても眩しかった
夢の中でも 私の恋は片思い
夢を見るのに肉眼は要らない……
大きな病を得る事は
偉大なる教師を得る事だと聴く
私は 平成二十五年十月十日より
白杖を突いている六十四歳の独居老人
「喜怒哀楽」 は己の想念が創り出すものであり
人間の本質は環境の中ではなく 各々(おのおの)が
創り出す想念の中を生きているのだと聴く
雲ひとつ無い秋天の息吹
それが私の……想念です!