文芸賞 受賞作品

佳作

部門: 詩

表題: 山猫

受賞者: 高知市 甫木恵美

裏山には山猫が棲んでいる
いつの頃からかそう思っていた

実家に帰ったある日の夜
子供らが寝静まった頃
裏山に光る二つの点を見た

二つの光は視界の中を
右へ行ったり左へ行ったりしていたが
風に揺れる草木に紛れて消えた

姿は見せなかったが
ずっと見ていたのだ

何年か後 実家に泊った夜
裏山を走り廻る夢を見た

一晩中 山猫を追いかけていたのだ
脱力感と筋肉痛で目が覚めた

見知らぬ山道なのに
自由自在に飛ぶように走っていた

気が付くと
見たこともない場所に来ていた

土色の山肌が切り開かれ
緑色の苔が鮮かに光り輝き
岩の間から透明の水が湧き出ていた

姿は消したが
その場所に導かれたのだ

裏山には山猫が棲んでいる
今も二つの眼光がこちらを見ている