佳作
部門: 詩
表題: 十四歳の戦争
受賞者: 高知市 濱 田 喬 子
この薬は いよいよという時に
自分の判断で飲みなさい
父が手渡してくれた「白い粉」
母は無言で パンツのゴム通しの中に
縫いつけてくれた
十四歳の少女は
その日から肌身離さず
「死」を身に付けていた
ソ連兵は連日扉を蹴り壊し強奪に来た
その日 少女は庭でひとりぼっちになり
防空壕に隠れて息を潜めていた
「ダワイ」と叫ぶ声
マンドリン銃の響き
父の声が蘇ってくる「自分の判断で・・・・・・」
震える手で白い粉を取り出す
迷った 泣けるだけ泣いた
みんなの顔が浮かんでくる
日本語の上手なハンさんや
泣き虫のルーシャも
戦争は津波のように
友人たちを奪い去ってしまった
もう一度 一緒に夢を語りたい
握りしめていた白い粉をポケットに入れて
死ぬなんてできないと心に決めた
ソ連兵の靴音が消えた頃
そっと 家の中に入る
父親は既に拉致されていた
泣きじゃくる少女を
白い割烹着が抱きしめてくれた
敗戦 棄民 拉致 強奪 白い粉
命がこぼれそうになった日
たったひとりで戦った
十四歳の戦争
※白い粉(青酸カリ) ダワイ(ソ連兵が強奪の時に使う言葉) マンドリン銃(マンドリンの形に似たソ連兵の銃)