文芸賞 受賞作品

佳作

部門: 詩

表題: あの日

受賞者: 高知市 大江 碧

あの日の青空を
私は決して忘れない

5歳だった私は
朝からずっと祖母の後ろを追い掛けて
お小遣いをねだっていた
しかし いつもは優しい彼女が何故か
その日は一言も口をきかず
私を無視し続けた
私はどうしても納得出来ずついには泣き出し
それでも彼女の後を追い掛けた
要求が通らない事より
虫される事が辛かった
そしてその日は泣き疲れて眠ってしまった

翌日から私は 決して駄々をこねない
聞き分けの良い子になった
私は彼女から 社会のルールを学び
彼女を尊敬して成長した

私が結婚して家を出てながい時が過ぎ
彼女が九十六歳になった頃
私は彼女に呼ばれて実家に行った
彼女は私に「あの日・・・」と言い 私は
その「あの日」がすぐに分かった
私が泣きながら眠った「あの日」を
彼女はずっと忘れていなかった
私と彼女は「あの日」で繋がっていたのだ
お互いが自分を悔い お互いを思いやり
ながい時間「あの日」で繋がっていたのだ
一ヶ月後彼女は安らかな眠りについた

「あの日」の彼女の年齢を私が「あの日」を思う時
私は5歳の自分になったり
「あの日」の祖母になったりする