佳作
部門: 詩
表題: 観世縒(かんぜより)
受賞者: 高知市 磯江眞知子
引出しを片づけていると
隅に祝儀袋の水引があった
こんなもん捨てよう
まてよ繋(つな)いだら紐になる
赤白の長い紐が出来た
ふと 観世縒りが浮かび縒ってみる
手指はしっかり覚えていた
実家は質屋を営んでいた
お客さんから預かった品物には
入質日と名前と金額を書いた会え符ふを付けた
会符は丈夫な和紙で作られている
品物が受け出され不用になった会符は
こよりにして筆立に入れた
こよりがたまると観世縒りにする
小学生のころ
祖母にこよりを習った
スーと細く長く縒るのは難しい
何回練習しても太く短くなる
丈夫な和紙もよれよれ ふにゃふにゃ
そのうち上手になった
中学生になると
観世縒りに興味を持ち祖母に習った
両手の親指と人差指で縒りながら締める
こよりとこよりの継目が上手に出来ない
ぽこぽこ節になって目立つ
不細工な仕上りもやがて合格点になる
丈夫な紐が出来 長くなると玉に巻く
この紐は品物の包みを括くくるのに使う
明治創業から九十年続いた質屋業は
祖母の死を機に廃業 観世縒りは終わった
今は 百均でいろいろな紐を売っている
観世縒りなど全く必要なし
伝えることもない