文芸奨励賞
部門: 詩
表題: 目玉焼き
受賞者: 高知市 久保 亜図美
朝ごはんは半熟の目玉焼き
黄色と白の大きな瞳がねぼけた私をみつめか
えしてくる 毎朝あなたのことばかりを白い
光の中で思い出す あの朝に窓辺でみた光景
を黄色い太陽がまるく切りとる 好奇心だけ
でさわらないで 一度ふれられてしまったと
たんに私の性質は変わってしまった それは
フライパンに落とされた卵がじゅうじゅうか
たまるように 前の状態にはもどせない は
りつく気持ちがこげついてしまう 重なりあ
った黄身と白身ははがされることなくいつも
一緒 あなたと目玉焼きになりたかった 上
に乗せるだけで豪華になる ロコモコ トー
スト スパゲティー ハンバーグはあなたも
好きだよね じゅくじゅくの気持ちが固まら
ない なにをかけて食べるか決められない
お塩 しょうゆ ソース トマトケチャップ
どんな味をつけても中身は同じ ふりまわさ
れるのはもういや 遠心力で破裂するこころ
本当に知ってほしいことはうすい殻の中に隠
れてて 一度かつんと割ってしまったら 秘
密までどろりとこぼれてしまう ちゃんと焼
かないと美味しくない でも火を通しすぎて
もだめ 絶妙な距離感が必要でどうやって接
したらいいかわからない 好きと嫌いが一緒
になってる はっきりとした両極端の気持ち
黄色と白の2色どっちつかず まるごとのみ
こんで胸が苦しくなる できあがりを待って
いてもはじまらない 意味ありげな言葉の裏
表 どこからみてもまるくみえるようで正確
な形はわからないように 名前をつけられな
い気持ちはじわじわこころにひろがっていく
今日も朝がきてまた思い出せばもやもやとざ
わめく熱い胸の中で ぽちっとおとした恋の
たまごが目玉焼きになってふくらんでいく
朝ごはんは半熟の目玉焼き